何年も定期的に通ってくれていた高齢の患者さん。気づけば、しばらく予約が入っていない。
そんな患者さんに、心当たりはないでしょうか。
外来から見えるのは、「予約が途切れた」というところまでです。引っ越したのか、別の医院に移ったのか、それとも通うこと自体が難しくなったのか。理由までは、なかなか分かりません。
この記事は、訪問歯科を始めましょうとお勧めするものではありません。来なくなった患者さんの側で、何が起きていることがあるのか。訪問歯科の現場で見聞きしてきたことをもとに、自院の患者さんを思い浮かべながら考えるための材料として整理しました。
「来なくなった」のか、「来られなくなった」のか
高齢の患者さんが来なくなる理由は、一つではありません。入院した、施設に入った、足腰が弱って一人では外出しにくくなった。患者さんの側では、こうした変化から、通院そのものが難しくなっていることがあります。
私は訪問歯科の現場で、ご家族から「歯医者に連れて行くのが大変」という声を聞いてきました。施設の職員さんからも、利用者さんを車に乗せて歯科へ連れて行くこと自体が大変だ、という声を聞いてきました。
外来の側から見ると「来なくなった」ように見える患者さんも、実際には「来られなくなった」のかもしれません。
歯科訪問診療につながったきっかけで、最も多かったもの
厚生労働省の令和6年度の調査(在宅医療、在宅歯科医療、在宅訪問薬剤管理及び訪問看護の実施状況調査)では、歯科訪問診療を実施したきっかけとして最も多かったのは、「自院に通院歴のある患者・家族等からの依頼」でした(26.9%。参考資料)。
訪問歯科というと、介護施設への営業を思い浮かべる方もいるかもしれません。一方、この調査では、もともと自院に通院歴のある患者さんやご家族からの依頼が、最も多いきっかけとなっていました。
訪問歯科は、自院とは関係のない特別な話ではなく、自院の患者さんの変化とつながっている話でもあります。
訪問歯科を考えるときに見ておきたい3つのこと
では、自院の場合はどうでしょうか。訪問歯科を考えるときに、まず見ておきたいことを3つにまとめました。
来なくなった患者さんの「その後」が、院内で見えているか
来なくなった患者さんのその後は、院長には見えていなくても、受付や歯科衛生士が、ご家族から聞いていることがあります。
そうした話が、院内のどこかで止まっていないか。まずは、来なくなった高齢の患者さんのその後が、院内でどこまで見えているかを確かめてみてください。
「通えている」と「無理なく通えている」は同じではない
まだ外来に通えている患者さんの中にも、通院そのものの負担が大きくなっている方がいます。
高齢の方や車椅子を利用している方の場合、歯科医院まで連れて行けば終わりではありません。自宅や施設から車へ乗り、医院に着いて車から降り、院内へ移動する。さらに歯科では、診療のために車椅子から診療台へ移ってもらう必要がある場合もあります。
自分で立ち上がったり、支えがあれば移動できたりする段階であれば対応できても、状態が変わると、一つひとつの移動に介助が必要になります。医院がバリアフリーかどうかによっても、通院の負担は変わります。
私が関わっていた医院では、ご家族が介助しながら外来に通っていた患者さんの様子を院長が見て、「よかったら、訪問診療もできますよ」と声をかけたことがありました。その後、その患者さんは外来から訪問診療へ切り替わりました。
また、在宅の患者さんでは、ご家族から「自分一人では外へ連れ出すのが難しい」という話を聞くこともありました。
施設の場合も同じです。職員さんが利用者さんを歯科へ連れて行くとなれば、移動時間だけではなく、診療までの待ち時間、診療、会計、施設へ戻るまで、その職員さんが付き添うことになります。その間、施設内ではスタッフが一人少ない状態になります。
つまり「歯科医院まで行けるか」だけではなく、その1回の通院に、本人・家族・施設職員がどれだけの時間と介助を必要としているかまで見ないと、本当の通院負担は分かりません。
「通えている」ことと、「無理なく通えている」ことは、同じではありません。
なお、歯科訪問診療は、通院が困難な方が対象です。まだ無理なく通える患者さんに訪問を勧める、という意味ではありません。通院の様子に変化がないか、その背景まで気にかけておくということです。
通えなくなったとき、自院はどう関わるか
長く通ってくれた患者さんが通院できなくなったとき、医院としてどう関わるか。
自院で訪問診療を行うことも一つの方法ですし、必要に応じて、地域で訪問歯科に対応している医院へつなぐという選択肢もあります。
今すぐ決める必要はありません。ただ、一度考えておくと、ご家族から「家に来てもらえませんか」と聞かれたときに、慌てずに答えられます。
自院にも、「来られなくなった」患者さんがいるかもしれない
予約が途切れた高齢の患者さんは、「来なくなった」のではなく、「来られなくなった」のかもしれません。
最近見かけない高齢の患者さんを、一人思い浮かべてみてください。その方が今どうしているかを考えることが、訪問歯科を自院のこととして考える最初のきっかけになります。
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患者さんの変化、人と時間、院内の受け止め、地域とのつながり、院長としての考え、の5つについて、12の質問に答えることで、自院の準備がどこまで見えていて、どこがまだ見えていないかを整理できます(所要時間2〜3分)。始める・始めないを判定するものではありません。
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参考資料
1.厚生労働省
「令和6年度診療報酬改定の結果検証に係る特別調査 在宅医療、在宅歯科医療、在宅訪問薬剤管理及び訪問看護の実施状況調査 報告書(案)<概要>」(中央社会保険医療協議会 2025年4月23日)図表3-13「歯科訪問診療を実施したきっかけ(最も当てはまるもの)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001479588.pdf
歯科医療機関患者調査(n=1,539)で、歯科訪問診療を実施したきっかけは「自院に通院歴のある患者・家族等からの依頼」が26.9%で最も多く、次いで「介護保険施設からの紹介」が17.3%と報告されています。


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