ケアマネジャーから、なぜ訪問歯科への相談が来ないのか?|訪問歯科をどう認識し、何に困っているのか

施設・ケアマネ連携

ケアマネジャーからの相談がなかなか来ない。その背景を、ケアマネジャーを対象にした調査と現場の経験から整理しました。訪問歯科がどう認識され、相談の前にどんなことで困っているのかを見ていきます。

居宅介護支援事業所へ挨拶に伺い、名刺やパンフレットもお渡しした。それでも、ケアマネジャーからの相談はなかなか来ない。そう感じている医院もあると思います。

紹介や相談の数は、地域の状況、営業、訪問の体制、これまでの関わりなど、いろいろなことで変わります。歯科医院の側で見直せることについては、以前の記事で整理しました。

関連記事:訪問歯科でケアマネから紹介が来ないときに見直したい4つのポイント

今回は少し視点を変えて、相談が歯科医院に届く前の段階を見ていきます。ケアマネジャーの側では、口の問題について、どんなことが起きているのでしょうか。

先にお伝えしておくと、これは「ケアマネジャーの理解が足りない」という話ではありません。ケアマネジャーは、利用者さんの生活全体を支える立場で仕事をしています。口のことは、その中の一つです。立場が違えば、見えているものも、判断の手がかりも違います。

この記事では、調査結果とあわせて、私が訪問歯科の仕事の中で接してきたケアマネジャーとの会話も紹介します。私の経験は主に、訪問歯科を行う医院が比較的少なく、まだ十分に知られていないと感じる地域でのもので、どの地域でも同じというわけではありません。

ケアマネジャーも、歯科の関わりが必要な利用者がいることは認識している

まず、前提として見ておきたい調査があります。

東京都が2022年に、都内のケアマネジャーを対象に行った調査(369人が回答)では、担当する利用者の中に「歯科医師に診てもらった方が良いケース」があると答えたケアマネジャーが90.8%でした。このケースには、すでに歯科で治療中の人や、定期的に受診している人も含まれています。

つまり、少なくともこの調査では、多くのケアマネジャーが、担当する利用者の中に歯科の関わりが必要な人がいると認識していました。「口のことに関心がない」という前提で考えると、実際の状況を見誤るかもしれません。

同じ調査で、担当している利用者数は「30〜39人」という回答が最も多くなっていました。ケアマネジャーは、一人ひとりの利用者さんについて、介護サービスの調整、医療との連携、家族とのやり取りなどを担っています。口のことは、その多くの仕事の中の一つです。

相談が届くまでに、ケアマネジャー側で起きていること

ケアマネジャーから歯科医院へ相談が届くまでには、たとえば次のような段階や事情が関わっています。

  1. 利用者さんの口の問題に気づく
  2. 歯科に相談した方がよい状態かを判断する
  3. 訪問歯科で何ができるかを知っている
  4. 本人・家族の意向を確かめる
  5. ほかの生活課題との兼ね合いを考える
  6. 相談先を決めて、受診までつなぐ

すべての相談がこの順番で進むわけではありません。本人や家族が先に歯科へ連絡することもありますし、施設や訪問看護師など、ほかの職種から話が来ることもあります。ここでは整理のために分けて、それぞれで起きやすいことを見ていきます。

1.口の状態に気づく機会が限られている

ケアマネジャーは、利用者さんの口の状態をどのように知っているのでしょうか。

先ほどの東京都の調査では、利用者の歯や口の状態を「原則、全員」または「必要と思われた利用者のみ」把握していると答えたケアマネジャー(345人)に、把握の方法を聞いています(複数回答)。最も多かったのは「本人・家族からのヒアリング」で87.0%でした。一方、「口腔内の観察」は16.8%、「マニュアルや評価シートの利用」は3.5%でした。

また、ケアマネジャー全員(369人)に口の中の観察をしているかを聞いたところ、「ほとんど実施していない」「全く実施していない」が合わせて半数を超えていました。

2010年に全国の居宅介護支援事業所を対象に行われた調査(858事業所が回答)では、ケアプランを作るときのアセスメントで口の課題をどう考慮しているかについて、「症状のあるものだけ考慮」という回答が74.6%を占めていました。

ここからは調査結果をもとにした私の考えです。口の中の問題は、本人が痛みを訴えなければ、周りからは気づきにくいものです。本人や家族の話から把握する方法が中心であれば、痛みや入れ歯の不具合など、はっきりした訴えが出てから初めて分かる、ということも起こりやすいと考えられます。歯科医院から見ると「もっと早く相談してくれれば」と思う段階でも、ケアマネジャーの側からは、まだ問題として見えていないことがあるのかもしれません。

2.歯科に相談すべき状態かを判断する手がかりが少ない

ここで考えたいのは、「目の前の利用者さんの口の状態は、歯科に相談するほどの問題なのか」という判断です。口のことが少し気になったとしても、それが歯科に相談すべき状態なのかどうかを見極めるのは、簡単ではありません。

東京都の調査では、口の中の観察を「ほとんど」または「全く」実施していないと答えたケアマネジャー(211人)に、観察をしていない理由を聞いています(複数回答)。最も多かったのは「確認するための知識を持っていない」で53.1%でした。「必要性を感じていない」は3.8%でした。

これは「口の中を観察しない理由」を聞いたもので、「歯科に相談しない理由」を聞いたものではありません。それでも、少なくとも観察については、「必要性を感じていない」よりも「確認するための知識を持っていない」という理由の方が、はるかに多く挙がっていました。報告書でも、口の状態を把握するための知識や手段を得る機会が求められている様子がうかがえる、とまとめられています。

同じ調査で、ケアマネジャー全員に「利用者の口腔内の状況を把握するために必要と思うこと」を聞いたところ(複数回答)、「相談先となる歯科医師や歯科衛生士」が55.3%、「チェックシート」が53.9%と、いずれも半数を超えていました。

ここからは私の解釈です。口の状態を確かめる知識や方法が手元になければ、それが歯科に相談すべき状態かどうかを判断する手がかりも少なくなると考えられます。歯科医院の側は「気になることがあれば、いつでもご相談ください」とお伝えすることが多いと思います。ただ、ケアマネジャーの側では、その「気になること」に当たるのかどうかを判断しにくい場面があるのかもしれません。

3.訪問歯科で何ができるのかが、知られていないことがある

2が「この口の状態は歯科に相談する問題か」という判断だとすれば、3は「訪問歯科なら、それに対応できるのか」という知識の問題です。歯科に診てもらった方がよいと感じていても、訪問歯科でどこまで対応できるのかが分からなければ、相談先として思い浮かびにくくなります。

先ほどの2010年の全国調査では、在宅療養での歯科との関わりについて「知りたい情報」として最も多かったのが「歯科訪問診療が可能な要件について」で46.7%でした(複数回答)。また、今後歯科との連携を広げるために必要だと思うことでは、「歯科訪問診療の制度対象となる治療の範囲を明確にすること」が64.3%で最も多くなっていました(複数回答)。論文では、費用がいくらかかるかの情報を求める声も、自由記載にあったと書かれています。この調査は10年以上前のもので、今の状況とは異なる可能性があります。

私が仕事をしてきたのは、訪問歯科を行う医院が比較的少なく、訪問歯科そのものもまだ十分に知られていないと感じる地域が中心でした。都市部の、競争の激しい地域を中心に活動していたわけではありません。そうした地域でケアマネジャーと話していると、次のような認識に触れることがありました。

  • 訪問歯科では、入れ歯の対応しかできないと思っていた
  • 虫歯の治療や抜歯は、歯科医院に通わないとできないと思っていた

私が勤務していた医院が訪問で行っていた診療の内容をお伝えすると、「そんなこともできるんですか」と驚かれることもありました。なお、訪問歯科で実際にどこまでの処置ができるかは、患者さんの状態や医院の体制によって異なります。

相談しなかった理由を一人ひとりに確かめたわけではないので、ここからは私の推測です。訪問歯科で対応できることが知られていないために、相談先の選択肢として思い浮かばなかったケースもあったのではないかと考えています。

歯科の側の情報の出し方にも、見直せるところがあると感じています。私が訪問歯科の仕事を始めた頃、医院にあったのは三つ折りのパンフレットくらいでした。家族の方や営業先に説明していて、料金がどこにも書かれていないことに気づき、訪問開始から費用までの流れを説明する資料を自分で作りました。歯科の側が当たり前だと思っている情報でも、相手には届いていないことがあります。

4.本人・家族の意向を確かめる必要がある

ケアマネジャーは、本人や家族の意向を確かめながら支援を組み立てます。歯科の受診や費用についても、家族の考えを確かめる必要がある場合があります。

私自身の経験を一つ紹介します。当時、多職種連携に取り組む中で、連携していた院外の言語聴覚士から、在宅の患者さんについて「訪問歯科が必要ではないか」という提案を受け、患者さんの状態に関する資料もいただきました。

そこで歯科の側から担当のケアマネジャーに連絡したところ、同居している奥様が訪問歯科の介入を嫌がるかもしれない、という懸念を伝えられ、訪問は見送ることになりました。

実際に奥様が訪問歯科を拒否されたのかどうかは、歯科の側では確認できていません。歯科の側に見えたのは「見送る」という結果で、そこに至るまでのやり取りや判断の背景は分かりませんでした。

このように、歯科の必要性を指摘する専門職がいても、本人・家族の意向をめぐる事情によって、訪問につながらないことがあります。そして歯科医院からは、「相談が来なかった」「見送りになった」という結果しか見えないこともあります。

5.ほかの課題との兼ね合いで、口のことが後になることがある

在宅で暮らす利用者さんは、口以外にも、病気や体調の変化、介護サービスの調整、家族の介護の状況など、さまざまな課題を抱えています。ケアマネジャーは、そうしたいくつもの課題を同時に調整する立場にあります。

東京都の調査で、口の中の観察をほとんど、または全く実施していないケアマネジャー(211人)が挙げた理由の中には、「優先度が低い」も19.9%ありました(複数回答)。ただし、これも口の中の観察についての理由で、歯科への相談を後回しにした割合を示すものではありません。

私が運営に関わっていたときの実感としても、ケアマネジャーからの相談の時期にはばらつきがありました。担当している利用者全員に歯科の必要性が出るわけではなく、口の問題に気づくタイミング、本人や家族の希望、医療の優先度など、いろいろなことが重なって、相談が出てくる時期が決まっていたように思います。

ここからは私の考えですが、命や生活に直結する課題が重なっているとき、痛みの訴えがない口のことが後になるのは、ケアマネジャーの立場からすれば無理のないことでもあると感じています。

6.相談先があっても、すぐに相談や受診につながるとは限らない

最後に、相談先と、その先の受診についてです。

東京都の調査で、利用者の歯科受診について相談・依頼する先を聞いたところ(複数回答)、「訪問歯科専門の歯科診療所」が78.3%、「利用者のかかりつけ歯科医」が60.2%でした。多くのケアマネジャーが相談・依頼先を挙げており、少なくともこの調査からは、「相談先がまったく分からない」という状況が中心ではないと読み取れます。

一方で、2で触れたように、口の状態を把握するために必要なこととして「相談先となる歯科医師や歯科衛生士」を挙げたケアマネジャーが半数を超えていました。依頼先として知っていることと、判断に迷ったときに聞ける相手がいることは、同じではないのかもしれません。

また、相談しても実際の診療までに時間がかかる場合や、新しい相談先があることが知られていない場合もあります。

私は、訪問歯科を行う医院が比較的少ないと感じる地域で、訪問歯科の立ち上げに携わったことがあります。立ち上げにあたって居宅介護支援事業所へ営業に伺った際、ケアマネジャーから、それまで利用していた歯科への相談・依頼の方法では、実際に訪問診療を受けられるまで1か月以上かかることがある、というお話を聞きました。そこで、新たに訪問歯科を始めた勤務先の医院では、ケアマネジャーから直接ご相談やご依頼を受けられることをお伝えしていました。

なお、それまでの依頼の方法は地域で決まったルールではなく、そのときお話ししたケアマネジャーが利用していた方法です。

この経験から、地域に新しい訪問歯科の受け入れ先ができても、その存在や依頼の方法が知られていなければ、相談先の選択肢として認識されない場合があると感じました。2で見た「歯科に相談する必要があるのかが分からない」とは別の、「必要だと分かっていても、受診につながりにくい」という課題です。

ただし、これは私が特定の地域で経験したことで、全国的な待機期間や、訪問歯科の不足を示すデータではありません。

調査から言えること、まだ言えないこと

ここまで、いくつかの調査を紹介してきました。ただし、どの調査にも限界があります。

  • 東京都の調査は、都内のケアマネジャーを対象にした2022年の一時点の調査で、回答した事業所は配布先1,000か所のうち358か所(約36%)です。
  • 全国調査は2010年のもので、回収率は30.4%でした。論文自身も、歯科への意識が比較的高いケアマネジャーが回答している可能性を指摘しています。
  • 紹介した数値の多くは、口の状態の把握や観察、知りたい情報についての設問で、「なぜ歯科医院に相談しなかったのか」を直接聞いたものではありません。

そのため、「ケアマネジャーから相談が来ないのは、この理由だ」と一つに決めることはできません。ここで整理した課題は、相談が届かない背景として考えられるものの一部です。医院のある地域、関わっているケアマネジャーとの関係、利用者さんの状況によって、当てはまることは変わります。

「理解不足」ではなく、立場の違いとして見る

歯科医院の側から見ると、「ケアマネジャーに歯科の大切さが伝わっていないのではないか」と感じることがあるかもしれません。

ただ、ここまで見てきたように、少なくとも東京都の調査では、多くのケアマネジャーが、担当する利用者の中に歯科医師に診てもらった方がよい人がいると答えていました。そのうえで、口の状態を確認する方法や知識、訪問歯科で何ができるかが知られているか、本人・家族の意向、ほかの課題との兼ね合い、地域の診療体制など、いくつもの事情が関わっていると考えられます。

相談が来ないことを、どちらかの努力不足として捉えるのではなく、立場の違いから生まれるすれ違いとして見ておくことが、次の一歩を考えるうえで大切だと考えています。

ケアマネジャー側の事情を踏まえて、歯科医院が持てる視点

最後に、ここまでの内容を踏まえて、歯科医院の側で持っておきたい視点を簡単に整理します。

  • 口の問題は、訴えが出てから見つかりやすい。 病名ではなく、「食べる量が減った」「むせる」「入れ歯を外している」といった生活の中の変化が、相談のきっかけになることを伝えておく。
  • 訪問歯科で何ができるかを、分かる形で伝える。 「訪問歯科をやっています」だけでなく、対応できる診療の内容、対象になる人、費用の目安など、ケアマネジャーが相談先として思い浮かべられる情報になっているかを見直す。
  • 本人・家族の意向を確かめる過程があることを理解しておく。 歯科医院から見えるのは「相談が来なかった」「見送りになった」という結果だけのこともある。
  • 依頼先として知られていることと、迷ったときに聞ける相手であることは違う。 自院に直接相談してよいことや、相談してから訪問までの流れも含めて、伝わっているかを確認する。

相談の入口の伝え方、最初の相談への対応、診療が始まったあとの情報共有など、歯科医院の側で見直せる具体的なポイントは、こちらの記事でまとめています。

関連記事:訪問歯科でケアマネから紹介が来ないときに見直したい4つのポイント

ケアマネジャーが相談しやすい関係をつくるには、歯科医院から何を、どう伝えるとよいのでしょうか。

noteでは、今回取り上げた課題を、日々の営業や情報提供にどう活かしていくか、もう少し具体的に考えています。

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参考資料

東京都「令和4年度 在宅療養者を取り巻く口腔ケア・在宅歯科診療の状況調査報告書」
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r4zaitaku1
都内の居宅介護事業所から無作為に抽出した1,000か所のケアマネジャーと、担当する利用者を対象に、2022年1〜2月に郵送で実施。358事業所から回答(ケアマネジャー369人分)。本文中の数値はすべてケアマネジャーの回答で、次の設問に基づいています。90.8%(表3「担当する利用者のうち、歯科医師に診てもらった方が良いケース(歯科治療中、定期受診を含む)があるか」、n=369)、30〜39人(図2、担当する利用者数、n=361)、87.0%・16.8%・3.5%(表6「歯や口腔の状況の把握の方法」、把握していると回答した345人、複数回答)、観察を「ほとんど・全く実施していない」が半数超(表7、n=369。45.3%+11.9%)、53.1%・3.8%・19.9%(表8「口腔内の観察を実施していない理由」、観察をほとんど・全く実施していないと回答した211人、複数回答)、78.3%・60.2%(表9「利用者の歯科受診の相談・依頼先」、n=369、複数回答)、55.3%・53.9%(表12「利用者の口腔内の状況を把握するために必要と思うこと」、n=369、複数回答)。

伊藤奏・相田潤・若栗真太郎・野口有紀・小坂健「居宅介護支援事業所と歯科との連携に関する実態調査および連携の要因についての調査」老年歯学 27巻2号, p.114-120, 2012年
https://doi.org/10.11259/jsg.27.114
全国の居宅介護支援事業所2,820か所に2010年1〜2月に郵送で実施し、858事業所が回答(回収率30.4%)。本文中の74.6%(表3「ケアプラン作成時のアセスメントにおける口腔の課題についての考慮」)、46.7%(表4「在宅療養での歯科との関わりについて知りたい情報」、複数回答)、64.3%(表4「今後歯科との連携を拡大するために必要と思うこと」、複数回答)はこの論文に基づいています。

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