訪問歯科を始めたのに患者が増えない理由|営業の前に確認したい5つのポイント

訪問歯科を始めたのに患者が増えない理由と営業前に確認したい5つのポイント 訪問歯科の運営・院内体制

訪問歯科を始めたのに患者が増えない――その理由は営業不足とは限りません。依頼の入口、施設・ケアマネとの連携、治療後の継続、院内体制まで、現場経験をもとに5つの確認ポイントを整理しました。

訪問歯科を始めたのに、思うように患者が増えない。そう感じたとき、多くの医院がまず考えるのは「営業を増やす」ことかもしれません。しかし、実際にはそれだけでは説明がつかないケースが少なくありません。

この記事では、訪問歯科の患者数が伸び悩む理由を、依頼の入口、施設との関係、ケアマネジャーとの連携、治療後の継続、院内体制という5つの視点から整理します。どこか一つを直せば必ず解決する、という単純な話ではありませんが、自院がどこで止まっているのかを考えるきっかけになれば幸いです。

訪問歯科の患者が増えない=営業不足とは限らない

新規の患者が増えないと、「営業をもっとやらなければ」と考えるのは自然なことです。ただ、訪問歯科が伸び悩む背景には、依頼数だけでなく、請求業務、人員、診療時間、機材、院内体制など複数の要因が関係する可能性があります。

つまり、患者が増えない理由は一つではなく、複数の場所に分散している可能性があります。具体的には、次の5つを確認していきます。

・依頼が入る入口
・施設との関係
・ケアマネジャーとの連携
・治療後の継続
・院内体制

① 依頼が入る入口が少ない

新規の依頼が、どこから、どのように入ってくるかを見る視点です。新規施設への営業だけに頼っていないか、まずは経路そのものを整理してみます。

私自身の経験では、施設で一度定期的な訪問体制ができると、入退所による多少の増減はあっても、その施設からの患者がゼロになることはほとんどありませんでした。地域における訪問部門の「土台」として機能していたという感覚があります。

一方、ケアマネジャーからの在宅患者の紹介は、非常にありがたいものである一方、毎月安定した数が来るというものではありませんでした。ある月にまとまって紹介をいただき、翌月はほとんどないということも珍しくなく、重要ではあるものの、見通しを立てにくい流入だと捉えていました。

このほか、外来に通っていた患者が、通院そのものが難しくなったタイミングで訪問へ切り替わるケースもあります。また、すでに関わりのある施設で患者数が減ってきたと感じたときには、前回の検診から一定の期間が空いていれば、施設全体の検診をあらためて行い、新たに口腔ケアや治療が必要になった方がいないかを確認する、という動き方もしていました。

依頼の入口を新規の施設営業だけに絞ってしまうと、そこがうまくいかなかったときに他の手立てがなくなります。まずは自院にとっての依頼の入口がいくつあり、それぞれがどんな性質のものかを整理することが、最初の一歩になります。

② 施設との関係が単発で終わっている

私が現場で感じていたのは、一度営業したり検診を行ったりするだけで、継続的な相談関係ができるわけではない、ということです。

施設側からすると、訪問歯科が入ることで新たに発生する業務があります。日程調整、患者の準備、診療中の対応、家族への連絡、診療後の申し送りなど、内容によっては「訪問歯科が入ると、こちらの仕事が増える」という負担感につながることがあります。実際に、そうした声を施設からいただいた経験もあります。

そのときに歯科側の都合だけで押し切ろうとすると、関係は長くは続きません。付き添いが本当に必要な場面かどうかを伝える、こちらから動ける部分は動く、家族への説明まで引き受けるなど、施設側の負担を増やさない工夫を重ねることで、少しずつ「困ったときに相談してもらえる」関係に変わっていく、という感覚を持っています。

③ ケアマネとの連携が紹介につながる形になっていない

ケアマネジャーとの間で書類のやり取りが発生している状態と、実際に「この方も一度診てもらえますか」と相談してもらえる関係は、同じではありません。歯科側からは「紹介が来ない」と見えている状況でも、ケアマネジャー側からは「どのタイミングで歯科に相談すればいいのか、判断がつかない」と見えていることがあります。どちらが悪いという話ではなく、必要な情報がうまく橋渡しされていない、という双方の間のすれ違いだと捉えています。

居宅介護支援事業所を対象にした全国調査(2012年公表)では、歯科診療所と「連携していない」と回答した事業所が4割ほどあり、在宅療養での歯科との関わりについて知りたい情報として最も多く挙げられたのは「歯科訪問診療が可能な要件」でした。また東京都が令和4年度に都内のケアマネジャーを対象に行った調査では、利用者の口の中の観察をほとんど行っていない理由として最も多かったのは「確認するための知識を持っていない」で、「必要性を感じていない」という回答はわずかでした。口のことに関心がないというよりも、どのような状態なら歯科に相談すればよいのかを判断する材料が十分でないことが影響している可能性があると考えられます。

単なるサービス案内やパンフレットだけでは、こうした判断材料としては十分ではない可能性があります。「訪問歯科をやっています」という案内だけでなく、「こういう状態の方であれば、一度歯科に相談してみてください」という判断材料まで届けられているかどうかが、紹介につながるかどうかを分けている可能性があります。紹介先を選ぶ場面でも、営業に来られたことよりも、過去の対応実績や紹介後の対応の積み重ねが重視されると考えられ、この点は私自身の実感とも重なります。

④ 治療が終わると関係も終わっている

私自身、実務の中で「治療が終われば訪問も終了」という捉え方に触れることがありました。検診の結果、必要な方には治療に加えて定期的な口腔ケアの受診も勧め、同意を得た上で診療を続けてきました。ただ、治療が終わればそこで訪問も終わり、という考え方が根強くあることも、実務の中で感じてきました。

高齢の患者は、口腔の状態や生活の状況が、時間とともに変化していきます。治療が終わった時点では問題がなくても、その後、噛み合わせや義歯の具合、飲み込みの様子などが変わっていくことは珍しくありません。そのため、一度治療が終わった患者についても、必要に応じてあらためて状態を確認し、新たに治療や口腔ケアが必要になっていないかを見に行く機会を持つ、という考え方が大切だと感じています。

ここで誤解のないようにお伝えしたいのは、患者数を維持するために必要のない診療を続ける、という意味ではないということです。あくまで変化を見落とさないための再評価であり、必要かどうかは患者ごとの状態に基づいて判断されるべきものです。

既存の施設で患者数が減ってきたと感じたときには、前回の検診から一定の期間が空いていれば、施設全体の歯科検診をあらためて行い、新たに口腔ケアや治療が必要になった方がいないかを確認する、という動き方をしていました。これも、患者を増やすための営業というより、変化に気づく機会を定期的に持つという考え方の延長にあります。

⑤ 院内体制が整っておらず、依頼を増やしても回らない

依頼の入口を増やし、施設やケアマネジャーとの関係を築けても、それを受け止める院内の体制が整っていなければ、依頼が増えるほど現場が混乱してしまいます。

電話対応はその一例です。訪問歯科への問い合わせが外来と同じ窓口に入ってくる場合、外来業務で手一杯の受付が十分に対応できず、そこで話が止まってしまうことがあります。誰が何を確認し、次にどうつなぐかがあらかじめ決まっていなければ、依頼そのものが立ち消えになりかねません。

書類も同様です。訪問後の記録や居宅療養管理指導に関する書類など、訪問歯科には診療以外の事務作業が一定量発生します。あらかじめ様式や記載の仕方を整理しておかなければ、患者数が増えるほど作業量が膨らみ、現場の負担が急激に重くなっていきます。

スケジュールや家族への連絡、施設との窓口対応、院内でのスタッフ間の役割分担も同じ構造です。誰が何を担当するかが曖昧なまま件数だけが増えると、必要な情報が共有されず、対応漏れや行き違いが起きやすくなります。また、訪問という業務そのものに慣れていないスタッフにとっては、外来とは勝手の違う環境に戸惑いを感じる場面も出てきます。

このような状態で依頼だけが増えていくと、現場からは「これ以上は受けられない」という空気が生まれ、最終的に医院として新しい依頼を積極的に受けたくない、という状態につながりかねません。患者を増やす前に、増えた依頼を受け止められる院内の体制になっているかを確認しておくことは、遠回りに見えて実は必要な準備だと考えています。

まずは「どこで止まっているか」を確認する

ここまで見てきた5つの視点、依頼の入口、施設との関係、ケアマネジャーとの連携、治療後の継続、院内体制は、それぞれ独立した問題ではなく、つながり合っています。ただし、すべてを一度に見直す必要はありません。医院によって、実際に止まっている場所は異なります。

依頼はそれなりに来ているのに院内が回っていない医院もあれば、院内は落ち着いているのに依頼の入口が一つしかない医院もあります。まずは自院がどこで止まっているのかを確認することが、次に何をすべきかを考える出発点になります。

自院の状況を確認する方法の一つとして、無料の「訪問歯科運営診断」をご用意しています。依頼の入口、施設・ケアマネジャーとの連携、治療後の継続、院内の体制、スタッフ体制という観点から、今どこに詰まりが出ている可能性があるかを確認できます。施設やケアマネジャーに「どんなケースなら相談してよいか」が伝わっているかどうかも、確認のポイントの一つに含まれています。

まとめ

訪問歯科の患者が増えないとき、まず営業を増やそうと考えるのは自然なことです。ただ、依頼の入口、施設との関係、ケアマネジャーとの連携、治療後の継続、院内体制のどこかで流れが止まっていれば、営業だけを増やしても状況は変わりにくいかもしれません。

大切なのは、すべてを一度に直そうとすることではなく、自院がどこで止まっているのかを見極めることです。ここで挙げた5つの視点を、まずは自院に当てはめて確認してみていただければと思います。

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参考資料

  1. 伊藤奏・相田潤・若栗真太郎・野口有紀・小坂健
    「居宅介護支援事業所と歯科との連携に関する実態調査および連携の要因についての調査」
    老年歯学 27巻2号, p.114-120, 2012年10月15日

DOI:
https://doi.org/10.11259/jsg.27.114

J-STAGE:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsg/27/2/27_114/_article/-char/ja

本文中の「歯科診療所と連携していない事業所が4割ほど」「知りたい情報として最も多く挙げられたのは歯科訪問診療が可能な要件」は、この論文の表3・表4(連携していない334件=40.1%、歯科訪問診療が可能な要件401件=46.7%)に基づいています。

  1. 東京都
    「令和4年度 在宅療養者を取り巻く口腔ケア・在宅歯科診療の状況調査報告書」

東京都保健医療局:
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/iryo/iryo_hoken/shikahoken/mokuhyo/r4iiha

報告書:
https://www.hokeniryo.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/hokeniryo/r4zaitaku1

本文中の「観察をほとんど行っていない理由として最も多かったのは『確認するための知識を持っていない』で、『必要性を感じていない』はわずか」は、この報告書のケアマネジャーへの調査の表8(口腔内の観察をほとんど・まったく実施していないと回答した211人の回答。確認するための知識を持っていない53.1%、必要性を感じていない3.8%。複数回答)に基づいています。調査は、都内の居宅介護事業所から無作為に抽出した1,000か所のケアマネジャーを対象に2022年1〜2月に郵送で行われ、369人分の回答が得られています。

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